同棲を始めて数週間が経った頃、よし君ん家の電話が鳴った。
よし君がお風呂に入っていたので、また大家さんからの苦情の電話かなと私が「はい。村上です…」と電話に出ると相手は女の人だった。
「あんた誰?」と怒った口調で聞かれた。
私が「えっと…」と答えに困ってしまうと「嘉和出してくれる?」と言われたので、よし君が今お風呂に入ってると伝えると、とにかく嘉和を電話に出せと言ってきた。
私は入浴中のよし君に「コレから電話掛かってきてるよ」と小指を立てながら言った。
よし君に「ああ、わかった。風呂出たら掛けなおすって言っといて」と言われたけど「なんか、急用みたいで今すぐよし君とかわって欲しいみたい」と私は言った。
そして、入浴を中断してよし君が電話に出るということを電話の女の人に伝えた。
よし君が電話出た。
みるみるうちによし君の顔色が変わった。
「あ?今の?彼女だけど…ああ…ああ…わかったよ!勝手に取りにくれば!?」よし君は最初っからケンカ越しの口調だった。
電話を切った後「今の人、誰だったの?」と私が聞くと、よし君は「元彼女!つか、本当のこと言うと別れてなかったんだよ。今の電話でちゃんと別れたから、黙っててごめんな。でもさぁ小指立ててコレからって言われた時、かぁちゃんからかと思ってたから正直ビビったよ」と笑って言った。
そう言われてみると、ソファーベッドの部屋に掛けられてた500ピースのミッキーマウスとミニーマウスのジクソーパズルには、ミッキーのところにはYOSHI、ミニーにはKAORUと書いてあったのを思い出した。
それと以前家出中に行き場がなくなってガチャん家に泊まった時、たまたまよし君の車と出くわして、その時ショートカットの女の子を助手席に乗っけていたことも思い出した。
「彼女ってパズルに書いてある薫ちゃんって人?前にアタシとガチャが一緒にいた時、車の助手席に乗ってた人?」と聞くと「そうだよ。そう言えばのり子ちゃんは薫のこと見たことあるんだな。」とよし君は言った。
よし君と薫ちゃんの関係が気になった私が「付き合ってどのくらい経つの?」と聞くと「中学生の時からだから5年くらいかな。」と軽く答えた。
私は「えぇっ!?5年も付き合ってたのに本当に別れちゃってもいいの?」と言った。
さっきの一本の電話で、別れたから大丈夫って言ってるよし君の言葉が半信半疑に思えてきた。
だって5年も続いている彼女がいたのだ。
私なんてよし君ん家に転がり込んで一ヶ月ちょい。
もしかしたら、よし君は気まぐれで私と一緒に住んでいるのかもしれない。
もしかしたら、やっぱり薫ちゃんの方がいいって言われるかもしれない。
心配になった私はよし君と薫ちゃんが五年間どんな関係だったのかを聞くことにした。
よし君は薫ちゃんとの付き合いを説明してくれた。
よし君の方から付き合おうって言って付き合い始めたこととか。
でも、よし君は薫ちゃんに酷い態度をとっていたらしい。
薫ちゃんは千葉県の浦安に住んでいて(よし君は中学生の頃まで浦安に住んでいた。だから、ガチャも他の仲間も地元はみんな浦安だった。)よし君の気分で夜中に「今から電車で昭島まで出てこい」と片道何時間もかかるのに迎えにも行かず、呼び出したかと思えば薫ちゃんが昭島まで出てくると「着くのが遅い。もういいから帰れよ」と自分勝手に接してたという話だった。
一番酷いと思ったのは、よし君の部屋で2人でいる時はよし君がソファーベッドの部屋のオーディオコンポで音楽聴いてて、薫ちゃんがテレビのある部屋でテレビを見てても、オーディオコンポのリモコンがソファーベッドの部屋にあるにもかかわらず「薫!リモコン取って!10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0」とカウントし0までにリモコン持ってこないと蹴りを入れるという話だ。
薫ちゃんは時には泣き出して「もう帰る!」とよし君の家から昭島の駅まで歩いて帰ろうとしたら、よし君はそれも気に入らなくて歩道で薫ちゃんに後ろから飛び蹴りをして薫ちゃんがふっ飛んだこともあるという有り様だった。
「ちょっとそれ可哀想くね?」と私が言うと「だって薫はのり子ちゃんみたいに飯作れなかったし、付き合ってたけど好きとかじゃなかったからなぁ」とよし君は答えた。
「アタシはそんな扱いされたら付き合えないな。アタシにも同じようにするの?つか、まだ一ヶ月ちょいしか一緒にいないけどなんでアタシには優しいの?」と聞くと「いろいろ理由あるけど、やっぱ一番の理由は飯作ってくれるからだな。俺のかぁちゃんも飯とか家事とか出来るから理想は家庭的な方がいいし…だから薫はカレーもまともに作れなかったから駄目だったのかもしれねーな。それに薫に対してやったことをのり子ちゃんには怖くて出来ないよ。のり子ちゃんキレたらヤバいのわかってるし…俺のり子ちゃんとこれからも一緒にいたいから」とよし君は答えた。
「薫ちゃんと一緒に草(大麻)キメたことないの?」と何気なく尋ねると「薫と草?あー無理無理。アイツ固いから」私は「それじゃあ楽しくないよね」と納得した。
「で、さっきの電話はどんな用事だったの?」と聞いてみると「ほら、のり子ちゃんが来てから全く連絡とってなかったから電話掛かってきたみたい。で、のり子ちゃんのことを彼女だって言ったらキレられて明日俺ん家に荷物取りに来るって言ってた」と薫ちゃんの心境とか、五年間付き合ってた関係とか全く考えて無いって感じで、やっぱよし君って自分が良ければいいって感じなのかなと思ったと同時に、私は「えぇっ!?明日荷物取りに来るの?明日よし君仕事でしょ?よし君が仕事帰ってきた後に取りに来るの?」と動揺した。
薫ちゃんはよし君が仕事行ってる間に荷物を取りに来るとのことだった。
もしかしたら薫ちゃんに「この泥棒猫!」と責められ、ひっぱたかれるかもしれないと心配になったけど、薫ちゃんはよし君ん家の合い鍵を持っておらず、私が荷物を取りに来た薫ちゃんを部屋へ入れてあげなきゃならなかった。
翌日よし君を送り出すと、いつもなら二度寝して昼前に起きて洗濯するんだけれども薫ちゃんが荷物を取りに来ることに緊張して朝早くから部屋の掃除と洗濯機を回した。
洗濯機が止まり、洗濯物を干し終わるとやることがない。
仕方ないので緊張を紛らわすためスーパーファミコンでゲームをやり始めた。
ゲームをやりながら、薫ちゃんが来たらどう接すればいいかを考えてた。
ニコニコしながら我が物顔で「どうぞ」と言うのもおかしいし、つっけんどんにするわけにもいかないなぁ、薫ちゃんがどんな態度かで見分けるしかないかと覚悟を決めると緊張しててもしょうがないなと開き直った。
正午過ぎ、インターホンが部屋に鳴り響いた。
「はぁーい」とドアを開けると薫ちゃんが男を連れて来ていた。
「嘉和は?」と聞かれたので「仕事行ってて居ませんけど」と答えると、薫ちゃんはズカズカと勢いよく部屋へ上がり、寝室や洗面所でガタガタと荷造りをして最後に玄関に置いてあったサーフボードを、連れて来た男に持ってもらって嵐のように部屋から出て行った。
五年間も付き合ってきた男に女が出来たことは、どんな酷いことされても別れなかった薫ちゃんにしたら悔しくてしかたない事で、ましてや新しく出来た女が中坊のガキとなればやりきれない気持ちでいっぱいだったと思う。
そしてよし君は薫ちゃんと別れて、私も今までナンパされて便利だった男達を整理し、よし君は私だけ私はよし君だけのちゃんとした関係になった。
2人で寝る寝室のUーSENからシャ乱Qの
シングルベッドが流れていた。
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