季節は秋から冬になっていた。
知君は私ん家に住んでるにも関わらず、ネタ(覚せい剤)を喰っちゃう(打っちゃう)と出掛けて帰ってこない、私は帰ってこない知君を苛立ちと不安を抱えて待つ、そんな日々を送っていた。
私は待つのが辛かったので知君に「もう、3日帰ってこないなら3日帰ってこないって言って出掛けてよ」と言うと「わかった」と知君は言った。
知君が、あるネタを引き(買い)に出かける時、私は「帰ってくるのいつ頃になるの?」と聞くと「先輩(みっしー)のとこじゃないから二時間くらいで帰ってこれる」と言った。
「わかった。もし帰れなくなったらいつ頃帰れるか電話して」と私が言うと「わかった」と知君は言った。
でも、知君は二時間経っても帰ってこなかった。
もう少ししたら帰ってくるかな…電話も掛かってこないし…と思って待ってみた。
三時間経っても帰ってこないし、電話もない。
四時間が経った時、私の方から電話をした。
電話に出ないかも…と思っていたら、知君は電話に出た。
「ごめんな。もう少しかかりそう。帰れそうになったら電話するから。いつもみたいに遅くはならないから」と知君は言った。
私は「わかった」と電話を切った。
私の本音は‘どうせ帰ってこない’だったけど、知君を信じなくちゃと思うようにした。
でも、知君は帰ってこなかった。
2度目に電話を掛けた時には、携帯の電源が切られていた。
その状態になると、もしかしたら知君がパクられたのかも…パクられてたら携帯の電源切られるし…どうしよう…と不安にかき立てられてしまう。
何度電話を掛けても「お客様のお掛けになった電話番号は電波の届かない場所におられるか、電源が入っていないため掛かりません」と繋がらない。
狂ったかのように電話を掛けまくる私。
そんな事ばかりだった。
ある時私がネタを喰いたいからと、私がバイトで稼いだお金でネタを引くことになった。
知君にお金を渡し、さすがに今回はちゃんとネタ引いて帰ってきてくれるだろうと思っていた。
知君が出掛けて数時間が経った…帰ってこない…知君に電話したら、知君は実家に居ると言った。
何で実家にいるの?
とにかくネタが引けたのかどうかを聞いてみた。
ネタは引けたらしい。
早く帰ってきてよと知君に言った。
電話を切った後、丸一昼夜知君の帰りを待った…帰ってこない。
知君がネタを引きに出掛けた次の晩、しびれを切らした私は出掛ける支度をし知君の実家に向かった。
私は免許を持っていない。
交通手段は徒歩だ。
片道40分~50分かかる道のりをテクテク歩いて知君ん家まで向かった。
知君ん家に着いた。
インターホンを鳴らす…知君のご両親は不在のようだった。
でも、電気がついてる部屋がある…知君は確実にいる。
インターホンを何回も鳴らした…出てこない。
一時間くらいインターホンを鳴らし続けて、諦めて帰ろうとした時ガチャっと玄関のドアが開いた。
「どうして、携帯の電源切るの!?なんでインターホン鳴らしても出てきてくれないの!?」と迫る私に「のりからお金預かって買ったネタ、全部喰っちゃったんだよ。それで合わす顔がなくてさ」と言った。
え?全部???
一発分も残ってないの?
ネタが残ってないのは正直がっかりだったけど、連絡を断った事の方が悔しかったので「喰っちゃったなら仕方ないよ…でも、なんで電話の電源切るの!?」と電話の電源を切った事の方が辛いと言うと「本当にごめんな」と言われた。
私はとにかく一緒に帰ろうと知君に言い、知君と車で家に帰った。
翌日、知君は知り合いに頼んでネタを一発分譲ってもらい「これしか手に入らなかったけど…全部喰っちゃって悪かった」と私に打ってくれた。
私はネタが喰いたいというだけで知君と付き合ってるわけじゃなかった。
大前提に知君と一緒にいるということが一番であり、知君と一緒にネタを喰えればなおのこといいってことで、ネタが絡んで知君が帰ってこないならネタは喰わなくてもいい、最初の頃に少しでもネタを置いていってくれてれば…という価値観も嘘じゃないけど、 とにかくいつ帰ってくるかわからない知君を待ってることで少しずつ私の知君への依存は強くなり、段々精神的にまいっていった。
知君が帰ってこなかった時、朝の4時頃「知君は必ず実家に寄る。車を乗り替える時に実家に寄ってネタを喰うはず」と思った私は、私ん家から40分~50分かかる道のりを歩いて知君ん家まで向かった。
着いても朝4時で、さすがに知君ん家のインターホンを鳴らせずにいた私は、知君の車の駐車場に行き知君の車を確認した。
シビックがない…知君は実家にはいない。
知君ん家は一階が知君のお兄さん夫婦が住んでいて、ご両親は二階に住んでいる三階建ての家で一階と二階の入口は別々になっていた。
二階の玄関に続く階段下で、帰ってくるかわからない知君を待った。
朝4時から待ち始めて6時が過ぎた。
季節は冬、寒さに凍えて知君を待った。
‘7時になっても帰ってこないなら家に帰ろう’そう思っているとマークⅡクオリスが目の前に止まった。
知君だった。
助手席には知君の友達が乗っている。
知君はすごい剣幕で「なんでこんなとこいるんだよ!」と三時間近く寒さを耐えて知君を待っていた私を叱りつけた。
私は泣きながら「だって、知君連絡とれなくなるし…いつ帰ってくるかわからないし…」と言うと「だからってこんなとこにいんなよ!俺が戻ってこなかったらどーすんだよ。とにかく車乗れよ、送っていってやるから」と言われた。
え?知君は帰ってきてくれないの?
私を送った知君は友達と釣りに出掛けた。
私って知君のなんなんだろう…悲しくなった。
知君は先輩だったり、後輩だったり、友達とネタを喰っては遊んで帰ってこないのに、私が中学の時の遊び仲間と遊ぶと言うと、知君は怒った態度で「遊んでくれば?」と言う。
その態度で私は「やっぱ遊びに行くの断るよ」と、本心は遊びに行くのがおもしろくないと思ってる知君を察して遊びに行かなかった。
ある時、私のPHSが鳴った。
公衆電話からだった。
出てみると清佳だった。
すごい落ち込んでるしゃべり方で「のり子今、彼氏といる?」と聞いてきた。
「彼氏?今いるよ…どうしたの?」と聞くと、清佳は何かヘタをうってヤクザに拉致られ3日間暴行されて、今電話代だけ貰って東大和の駅前から電話してるとのことだった。
東大和の駅前まで車で迎えにきてほしいと言われた。
正直、困った時だけ私に電話してくるんだな…と思った。
逆の立場だったら、迎えになんて来てくれないだろうと思った。
それでも私は知君に電話の内容を説明し、車を出してくれるか聞いてみた。
知君は車を出してくれると言ったので「じゃあ、今から迎えに行くから」と清佳の電話を切った。
清佳を東大和の駅前で拾って清佳ん家まで送る車内、清佳が背中を見せた。
背中も、腕も、顔も痣だらけだった。
清佳には「今付き合ってる彼氏、地元じゃ相当有名らしい」と話してあったので、どうやら清佳は私の友達ぶって知君に助けを求めてるそんな感じだった。
でも知君は取り合わなかった。
清佳を家まで送って、私ん家に帰る時「自分の女でもないのに、もめ事に顔つっこむわけねーじゃんなー」と知君は言った。
それからしばらく経って知君と2人で寝っ転がりながらイチャイチャしていた時、知君の携帯が鳴った。
私にも着信番号が見えてしまった。
清佳の番号だった。
なんで?
なんで清佳が知君の電話番号知ってるの?
私が電話の相手が清佳だと気づいた事を察した知君は仕方なく電話に出た。
「は?そんなん知らねーよ!電話切るぞ」と電話を切ってしまった。
私「清佳でしょ?なんで知君の携帯番号知ってるの?」
知君「先輩繋がりでちょっと…別に変な関係じゃないから」
私「電話の内容なんだって?」
知君「ネタ打ったら、空気が入ってどうしようって言われた。つか、そんなことくらいで電話してくんなよなぁ。本当にヤバかったら電話なんてかける余裕もねぇのにな」と笑った。
清佳がネタを喰ってるのは初耳だった。
知君は私の知らないところで清佳にネタを運んでいるんだと思った。
そして、どうして私にはネタを持たせてくれないのだろうと思ったけど、私のことを大事だと思ってるからなんだと思うしかなかった。
実際、この先自分で打つようになって、薬物絡みの人間関係の難しさに直面した私は、知君は知君なりに私を大事に思ってたから、私にネタを持たせなかったんだと実感したけど、この時はそんなことわからない。
頭で大事に思ってくれてるんだと思い込もうとしても心がついていかない。
そんなことが続いたある日、私は夕方1人でテレビアニメを見ていた。
確か、ちびまる子ちゃんだったと思う。
すると、悲しくもないし、感動したわけでもないのにツターッと涙がこぼれた。
あれ?アタシ泣いてる?
あれ?涙が…
涙が止まらない。
おかしいなぁと不思議でしかたなかった。
ポロポロと流れる涙…止めようと思っても、悔しかったり悲しくて泣いてるわけじゃないから我慢のしようがない。
そんな事が多くなってきたある日、洋画アウトブレイク(エボラ菌が感染していく映画)を見ていたら、シラフなのに突然大きな不安にさいなまれ私は気が狂ったかのように「ぅわーん!知君!知君は!?嫌ぁぁあっ!キャーッ…」と取り乱した。
その声を聞いた父と母が飛んできた。
自分でもどうしちゃったのかわからない。
何かあったわけじゃないから、母に「どーしたの!?」と聞かれても、泣きながら「よくわかんない」としか答えようがなかった。
助けて知君!そんな感情に支配されてた。
母が知君に電話を掛けて「知君と電話繋がったよ」と電話機を持ってきてくれた。
その時はたまたまネタを喰ってなかった知君はすぐに家に戻ってきてくれて「どうしたの?」と抱き寄せいい子いい子をしてくれた。
今、振り返ってみるとこの時相当精神が病んでいたんだと思う。
帰ってこない、連絡も取れなくなる知君。
ネタを喰っちゃうと‘自分がネタを喰う’のが一番になっちゃう知君。
もし、知君に少しばかりの思いやりがあったなら私はここまで追い詰められなかったと思う。
シラフの時は優しい知君。
ネタを喰うと変わっちゃう知君。
私の気持ちを訴えても伝わらなかった。
私はよっ君と付き合って人を信じること、話し合う事の大切さを身に付けて、知君と付き合って、たくさん話し合っても解ってもらえない人もいるということを学んだ。
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