知君と一緒に暮らし始めて半年とちょっとが過ぎたある日、自宅の電話が鳴った。
母が電話に出て「のり子。電話よ」と言い、電話機を渡された。
相手はよっ君の従姉妹だった。
よっ君と同棲していた頃、よっ君とよっ君のお母さんと私の3人で千葉県のよっ君の従姉妹の所へ遊びに行ったことがあった。
よっ君より年上の従姉妹と年下の子の3人がよっ君の従兄弟だった。
私も気を使いながらだけども、楽しくトランプをしたり、ご飯をご馳走になったりした。
その時の思い出の一つに、よっ君が大根の味噌汁で失言したことを思い出す。
お昼ご飯をよっ君のお母さんの妹が作ってくれてる時だった。
よっ君とよっ君の従兄弟と私でトランプゲームに盛り上がり勝ち負けに煙草をかけて遊んでいると、トントントントンッ!と台所から大根を刻むリズミカルな音が聞こえてきた。
よっ君は「何切ってんのーっ?」とよっ君のお母さんの妹に聞いた。
台所から「大根の味噌汁の大根切ってんだよ!」と大きな声で返事が返ってきた。
よっ君は私に「やっぱ、大根の味噌汁はこのリズミカルな包丁の音が醍醐味だな!つか、のりには出来ねーな」と言ったのだ。
すかさず、よっ君のお母さんが「のりちゃんがちゃんとご飯作ってくれてるだけでもありがたいと思いなさいよ」とフォローを入れた。
私は自分が包丁を使いこなせてないのを自分でもわかっていたし、よっ君が大根の味噌汁はこれだよ!これ!と言ってもさほど気にならなかった。
でも、よっ君のお母さんがフォローしてくれたことが、よっ君のお母さんは私を見てくれているんだと嬉しかった。
私は「アタシだってそのうち手早く包丁で切れるようになるもん。」と答えた。
よっ君は悪気はなかった大根の味噌汁の醍醐味発言を、よっ君のお母さんに「毎日ご飯作ってるのりちゃんに失礼でしょ!」と突っ込まれ、私に悪かったと言ってくれた。
私は「このぐらい気持ちのいい音がたてられれば食欲も湧くもんね。別に本当の事だし謝らなくていいよ」と言った。
そして、ご飯を食べ終えたよっ君とよっ君の従兄弟と私は車で出掛けて、本屋に行った。
そこの本屋で‘自殺マニュアル’と‘逃亡マニュアル’という本を見つけて買おうか悩んだけど、買うのはやめてドライブに行った。
よっ君の従兄弟はみんな感じのいい人達だった。
その時のよっ君の従姉妹から、私の実家に電話が掛かってきたのだ。
「もしもし?のり子ちゃん?嘉和の従姉妹なんだけどわかるかな?」と言われた時に、えっ???よっ君の従姉妹…なんで従姉妹から電話があるの?と、次に何を言われるか検討もつかなかった。
万が一、電話が掛かってくるならば、それはよっ君本人か、よっ君のお母さんからだとばかり思ってた。
私「はい。わかります…」
よっ君の従姉妹「電話掛けて迷惑なことはわかってるんだけど…のり子ちゃん正直に答えてね…嘉和のことどうしたいと思ってるの?」
私「私のせいで、よっ君が刑務所に入っちゃうようなことになったと思ってます。私も少年院に入って、いろいろ考えました。よっ君には本当に感謝してるし、その気持ちは一生変わらないと思います。」
よっ君の従姉妹「いや…起きちゃったことをどうこうって言いたいんじゃないのよ。のり子ちゃん今付き合ってる人とかいるのかな?」
私「はい…私ん家で一緒に暮らしてます…」
よっ君の従姉妹「じゃあ、嘉和が出て来ても会う気はないの?」
私「………………。」
よっ君が大事。
よっ君と一緒に暮らして、人を信じることを教えてもらった…感謝してる。
会いたくないなんて思ってない。
出来ることなら会いたい。
でも…………………。
よっ君の従姉妹「別にのり子ちゃんを責めるつもりもないし、正直に答えてくれればいいから…嘉和はこれから先も、のり子ちゃんと一緒にっていう気持ちがあるみたいなのよ…」
よっ君は私が待ってると信じてるんだ…
私が真面目に暮らして、よっ君を待ってると思って刑務所で過ごしてるんだ…
よっ君に会いたい…でも、私、覚せい剤に手を出してる…
ちゃんとよっ君を待ってたよって言えないことばかり…
真実を知ったよっ君の気持ちを考えてみて、よっ君には会わない方がいいと思った。
黙ってる私に、よっ君の従姉妹は「今付き合ってる彼とは長いの?その彼のこと本気なら、嘉和には私から話をするけど…」
私「よっ君を好きだから、会えません…」
よっ君の従姉妹「嘉和がのり子ちゃんに手紙を書いてもらいたいって言ってるのよ…」
え?手紙?私の手紙届くの?
よっ君に手紙を書いてあげたい…
でも、私は知君と別れてよっ君に手紙を送ることも出来そうにない。
万が一、よっ君に手紙を書くとしたら…知君と付き合ってることを隠して、刑務所生活頑張ってね…なんて書きたくない。
私が少年院に収容されてた期間、よっ君を強く想ったのと同じで、よっ君は刑務所という時間の流れが違う所に今も入っていて、日を追うごとに私への想いが強くなっていってるんだ。
私への想いが募る=刑務所生活が辛く厳しいということだ。
私「…よっ君に手紙…書けません」
よっ君の従姉妹「わかったゎ…嘉和はまだ刑務所の中だし、のり子ちゃんが待ってられなかった事は話は出来ないから、出所した後にのり子ちゃんは他の人と幸せにやってるから会いに行かないようにと話すから…ごめんね…こんな電話迷惑だったでしょ…のり子ちゃんも幸せになってね…じゃあ…」。。。ツーッツーッツーッ…電話が切れた。
私の想いは複雑だった。
今、私は知君と別れられない…私は知君に惚れてる…
よっ君がまだ服役中で辛い想いをしてるのに…私は覚せい剤を打ってる…
覚せい剤をやめる自信がない…よっ君と再会したら、よっ君は間違いなく覚せい剤をやるようになるだろう…
よっ君は大切な人だから…覚せい剤やってる私には会わない方がいいんだ…
知君とは、よっ君が出て来たら私はよっ君の元へ帰るという条件で付き合い始めたのに…そんな条件なんていらなかったんだ…
心のどこかで、私が待てなかったと聞いてもよっ君は私に会いに来てくれるかも…と期待する気持ちはある…
でも今は知君とうまく付き合っていくことを考えなくちゃ…
よっ君の従姉妹がよっ君に私には新しい彼がいて一緒に暮らしてると話をするんだ…
よっ君は私に会いに来ない…
よっ君の従姉妹から電話があったことは知君には話さなかった。
私は、大切にとっておいた、S(覚せい剤)をキメてた時に書いてくれたよっ君からの手紙を全部まとめた。
そして、家から近い大通りのベンチがある所のゴミ箱へ捨てた。
涙が溢れた…ありがとう…よっ君…
私はこの時、よっ君とは終わったと思っていた。
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